ISMS COLUMNISO規格の知識コラム(ISMS)
ISMS コラム
大手企業との取引開始を機に、ISMS(ISO 27001)の取得を求められるIT企業が増えています。
しかし、Excelによる煩雑な管理やコンサルタントへの丸投げでは、認証取得後も自社で運用を続けられる仕組みになりにくいのが実情です。
そこで注目されているのが、ISMS構築SaaSを活用し、自社主導で効率的に仕組みを整える方法です。この記事では、導入のメリットや失敗しやすいポイント、受託・SaaS開発の実務に合った運用方法、ツール選びの基準などを詳しく解説します。
目次
ISO・ISMS取得に関して
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ISMS認証の取得に向けた仕組みづくりを、クラウド上で効率化できるのが「ISMS構築SaaS」です。
まずは、従来のExcel管理やコンサルティングとの違いにも触れながら、その機能と特徴を見ていきましょう。
ISMS構築SaaSとは、ISMS(ISO 27001)の構築から認証取得後の運用までを効率化するクラウドサービスです。規程やマニュアルの整備をはじめ、情報資産台帳、リスク評価、従業員教育、審査で必要となる証跡などを一つのシステム上で管理できます。
コンサルタントに取得準備をすべて任せる「丸投げの取得代行」とは異なり、ツールのガイドやテンプレートを活用しながら、自社の業務に合ったISMSを自社主導で構築できる点が強みです。担当者の負担を抑えつつ、認証取得後も継続して運用できる仕組みを社内に蓄積できることが可能です。
IT企業の業務や開発環境は、日々スピーディに変化しています。従来型の管理方法では対応しにくい今、現場の負担を抑えながらISMSを継続運用できる手段として、SaaSの活用が注目されています。
その理由を3つの観点から解説します。
Excelによる台帳管理では、更新漏れや複数ファイル間の不整合が起こりやすく、担当者しか管理方法が分からない属人化のリスクも発生します。
また、コンサルタントが作成したテンプレート規程をそのまま採用すると、自社の業務実態と内容が乖離し、審査のためだけの運用に陥りかねません。取得後も継続できる仕組みづくりが重要です。
アジャイル開発やCI/CD、AWS・GCPなどのクラウドインフラ、リモートワークの普及により、IT企業の開発環境は大きく変化しています。
一方で、「紙やハンコ」を前提とした旧来のセキュリティルールでは、現代の開発スピードや働き方に対応できません。エンジニアの業務を妨げず、実際の開発フローに組み込めるISMS運用が求められています。
SaaSのタスク管理やアラート機能を活用すれば、必要な対応の期限や進捗を把握しやすくなり、運用を日常業務のなかに自然に定着させられます。
また、審査前になって書類や証跡を慌てて揃えるのではなく、普段から記録・確認・改善を積み重ねることが大切です。これにより、ISMSを「審査用の仕組み」から、継続的にPDCAを回す実務的な仕組みへと変えることができます。
ISMS構築SaaSを活用すると、認証取得に向けた準備から取得後の運用、審査対応までを一つの環境で進められます。
ここからは、導入によって得られる「スピード」「効率化」「審査対応」の3つのメリットを解説します。
導入するメリットの一つは、認証取得までの期間を短縮しやすいことです。
テンプレートや必要な作業を整理するタスク管理機能を活用すれば、ゼロから文書を作成したり、次に何をすべきか迷ったりする時間を減らせます。また、規程のベース作成と進行ステップの可視化により、スピーディな認証取得も期待できます。
日常的に使用する開発・業務ツールとの連携により、運用負荷を軽減できる点もメリットです。
API連携できる日常ツールの例
こうした情報の収集や確認を自動化すれば、手作業による転記やチェックを減らせます。現場のエンジニアに余計な負担をかけることなく、効率的なISMS運用が可能になります。
審査に必要な証跡を一元管理し、エビデンスの提出を効率化できることもメリットです。
日常業務で生じる記録を自動的にSaaS内へ蓄積できる仕組みがあれば、審査前に資料を探し回る手間を減らせます。
また、指摘事項への対応状況や規程の更新履歴もクラウド上で確認できるため、審査員から質問を受けた際にも、根拠を示しながらスムーズに説明できます。
SaaSツールはISMSの構築・運用を効率化できますが、導入するだけで認証を取得できるわけではありません。活用方法を誤ると、規程が形骸化する恐れもあります。
ここでは、ツールを導入しても成功しない企業の共通点を解説します。
ツールに用意されたテンプレート規程を、自社の開発フローやビジネスモデルに合わせず、そのまま採用するのは禁物です。実態に合わないルールを設定すると、本来不要な確認や記録が増え、逆に必要な管理作業が抜け落ちるケースもあります。
テンプレートは完成品ではなく、あくまでも規程作成の土台です。現場へのヒアリングを行い、自社の業務に合わせて調整しましょう。
規程と実際の開発フローに食い違いがあるとルールは形骸化します。
例えば、「システム変更は書面で承認する」と定めていても、現場ではGitHubを使い、1日に何度もデプロイしているケースです。この状態では、規程だけが存在し、実際には誰も守っていない状態になります。
現場の開発手順を確認し、既存のフローに沿ったルールへ見直すことがポイントです。
SaaSツールを導入しただけで、自動的に審査へ通るわけではありません。ツールは、文書管理やタスク進行、証跡収集などを効率化するための手段です。
リスクへの対応方針を決定し、従業員のセキュリティ意識を高めるのは、あくまで自社の役割です。マネジメントレビューなどの意思決定も組織として行い、仕組みを継続的に改善していく必要があります。
受託・SaaS開発企業が審査をスムーズに進めるには、規程・日常業務・審査対応を切り離さないことが重要です。
ここからは、開発実務に合ったルールづくり、証跡の蓄積、審査機関の選定という3つのポイントを解説します。
ツール上の規程は、そのまま使うのではなく、自社の開発サイクルやデプロイフローに合わせて調整しましょう。実際の承認方法や担当者、記録を残すタイミングまで具体化することで、より実効性の高いルールになります。
審査のために慌てて書類を作成するのではなく、SaaSの連携機能を活用し、普段の業務記録を継続的に蓄積しましょう。日常の対応履歴をそのままエビデンスとして提示できる状態をつくれば、審査準備の負担を大幅に減らせます。
SaaSで効率的に証跡を蓄積しても、審査機関が紙の印刷物やExcel台帳など、旧来型の提出方法だけを前提としていては、ツール導入の効果を十分に生かせません。ツール上の画面や出力データをエビデンスとして確認し、実際の開発・運用フローを理解したうえで審査できる機関を選ぶことがポイントです。
現場に過度な負担をかけない審査機関の選定が、スムーズな認証取得を左右します。
ISMS構築SaaSは、主な役割によって「ISMS構築・運用管理型」と「コンプライアンス自動化型」の2つに分けられます。
ISMS構築・運用管理型は、画面のガイドやテンプレートに沿って、ISMSに必要な文書作成やリスクアセスメント、タスク管理などを進めるタイプです。
一方、コンプライアンス自動化型は、AWSやGitHubなどの外部ツールと連携し、管理策の実施状況の確認やエビデンス収集を効率化します。
2つのタイプの違い
| 比較項目 | ISMS構築・運用管理型 | コンプライアンス自動化型 |
|---|---|---|
| 主な目的 | ISMSの構築・文書作成・運用管理を効率化する | 管理策の確認やエビデンス収集を自動化する |
| 主な機能 | タスク管理、文書作成、情報資産管理、リスクアセスメント、内部監査 | 外部ツール連携、証跡収集、設定監視、管理策の継続的なチェック |
| 進め方 | 画面のガイドやテンプレートに沿ってISMSを構築する | AWSやGitHubなどと連携し、実際の運用状況を確認する |
| 得意なこと | 初めてのISMS取得、文書作成、審査準備 | IT環境の継続監視、証跡収集、複数規格の一元管理 |
| 向いている企業 | ISMSの知識が少ない企業、日本語による支援を受けたい企業 | クラウドサービスを多用するIT企業、海外展開を進める企業 |
両者の機能は一部重なっており、明確に分けられるものではありません。
文書作成や取得手順の支援を重視するのか、外部ツールとの連携やエビデンス収集の自動化を重視するのかによって、適したサービスが異なります。
ISMS構築・運用管理型は、ISMS取得に必要な作業を整理し、文書や記録をクラウド上で一元管理するタイプです。
画面のガイドやテンプレートに沿って作業を進められるため、ISMSに詳しい担当者がいない企業でも、取得までの流れを把握しやすくなります。
WordやExcelによる管理を減らし、新規取得から取得後の運用、更新、審査対応まで効率化したい企業に向いています。
ISMS構築・運用管理型のSaaS
| サービス | 提供形態 | 主な特徴 | 向いている企業 |
|---|---|---|---|
| SecureNavi | ISMS専用SaaS | ガイドに沿ってISMSの構築、文書管理、リスクアセスメントなどを進められる | 初めてISMSを取得する企業、コンサルタントへの依存を減らしたい企業 |
| ISMSアシスト | ISMS専用SaaS | ステップ形式で取得・運用・更新を管理し、審査に必要な文書や記録も一元化できる | 専門知識が少ない企業、取得後の運用や担当者の引き継ぎまで効率化したい企業 |
| LRMのNotionを活用したISMS取得・運用支援 | Notion+テンプレート+コンサルティング | Notion上でタスク、文書、情報資産、リスク、教育、内部監査などを管理できる | Notionを利用している企業、コンサルタントの支援も受けたい企業 |
LRMのサービスは、独自開発されたISMS専用SaaSではありません。Notion上にISMSのテンプレートや管理環境を構築し、必要に応じてコンサルタントが支援するサービスです。
そのため、ツールを使って自社主体で取得を進めたい企業だけでなく、専門家の支援を受けながらISMSを構築したい企業にも選択肢となります。
コンプライアンス自動化型のSaaS
| サービス | 提供形態 | 主な特徴 | 向いている企業 |
|---|---|---|---|
| Vanta | 管理策の監視、証跡収集、リスク管理などを自動化し、複数の国際規格に対応する | AWS、GCP、Azure、GitHub、Oktaなど | 海外展開するSaaS企業、ISO27001とSOC 2などを並行して管理したい企業 |
| Drata | IT環境を継続的に監視し、管理策とエビデンスを一元管理するGRCプラットフォーム | クラウド、ID管理、開発・セキュリティツールなど | 継続的なコンプライアンス管理を重視する企業、国内で導入支援を受けたい企業 |
| Secureframe | クラウド環境の監視、従業員管理、ベンダー管理、証跡収集などを効率化する | AWS、GCP、Azure、GitHubなど | ISO27001やSOC 2など、複数規格への対応を効率化したい企業 |
コンプライアンス自動化型は、クラウドサービスや開発ツールを多用するIT企業と相性がよい一方、ツールを連携するだけでISMSが完成するわけではありません。
自社の業務に合った規程の作成やリスク評価、内部監査、マネジメントレビューなどは、別途適切に実施する必要があります。また、海外製品が中心となるため、日本語対応や国内の認証審査への対応方法も確認しておきましょう。
どちらのタイプが適しているかは、ISMSに関する社内の知識、自動化したい作業、利用中のツール、必要なサポートによって変わります。製品の機能だけでなく、自社がISMSをどのように構築・運用したいのかを整理したうえで選ぶことが重要です。
SaaSは、対応規格や連携機能、サポート内容がツールによって異なります。導入後のミスマッチを防ぐには、単に機能の豊富さだけで選ばないことが重要です。
ここでは、自社に最適なサービスを見極める4つのポイントを紹介します。
まず確認したいのが、最新の改訂規格「ISO 27001:2022」に標準対応しているかどうかです。
2022年版では管理策が再編され、脅威インテリジェンスやクラウドサービス利用時の情報セキュリティなどが追加されました。規程やリスク評価のテンプレートが、これらの管理策に対応しているツールを選びましょう。
連携できるサービスの数だけでなく、自社の利用環境に合っているかを確認することも大切です。
例えば、AWSやGoogle Workspaceと連携し、証跡収集やアカウントの棚卸しをどこまで自動化できるかがポイントです。手作業を減らしたい業務を整理したうえで、必要な連携機能を見極めましょう。
サポート範囲は、ISMS構築SaaSを選ぶうえで重要な比較基準です。
「サポートあり」と記載されていても、ツールの操作案内に限られるケースもあれば、規格の解釈やリスク評価、文書チェック、審査前の助言まで受けられる場合もあります。どこまでが標準料金に含まれ、何が有料オプションなのかを確認することが重要です。
社内のISMS知識や担当者数、確保できる工数をふまえ、自走型・伴走型・コンサル型のどれが適しているかを見極めることが大切です。
ISMS構築SaaSは有益な選択肢ですが、すべての企業に適しているわけではありません。自社のリテラシーや体制、確保できる工数などによって、向き・不向きがあります。
活用が向いている企業と、別の方法を検討したほうがよい企業を整理します。
SaaSでの構築・運用は、特に次のようなIT企業に向いています。
自社に一定のISMSリテラシーがあり、効率化しながらノウハウを社内に蓄積したい場合には、特に大きな効果が期待できます。
一方で、次のような企業では、SaaSを導入しても十分な効果を得られないケースがあります。
このような場合は、既存システムの継続利用やコンサルティングを中心としたサポートも検討しましょう。
ISMS構築SaaSは、認証取得の準備をラクにするだけのツールではありません。規程や台帳、タスク、証跡を日常業務のなかで管理し、認証取得後の運用を形骸化するのを防ぐ役割も担います。
重要なのは、自社のITインフラや体制に合ったサービスを見極めることです。自社主導でISMSを構築・運用すれば、社内にノウハウを蓄積しながら、セキュリティ体制を継続的に改善できます。
ぜひSaaSを上手に活用し、審査のためだけではない、現場で無理なく続けられるISMSを実現しましょう。
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